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2010-12-18 00:00
日本人の英語教育をどうするか?
四条 秀雄
不動産業
これは多くのバイリンガルの方が指摘していることですが、英語等の別の言語を学ぶということは一種の二重人格になることだと言われています。イメージを言語で表現する際に、日本語とは別の通路を形成することだと言われています。私自身も日本語のスイッチが切れた体験をしています。母語を失った感覚というのは、写真のネガフィルムのような真っ暗な感覚です。スイッチが戻って言語を取り戻すと、世の中が明るくなったような感覚に戻ります。二重人格と言っても、一人の人間としてイメージの共有や意識・着目点の共有はできている点で、人格統合されていますが、それを表現する方法が全く独立の二系統の方法を持つという意味で、二重人格状態になるということのようです。そして、おそらく両方の通路を長期に渡って同等に維持することは、なかなか難しいことだろうと思います。よりストレスなく、イメージを表現する道具(言語)のほうを、自然に選択するようになるからです。
私の予想では、最近の日本における英語の早期教育や大学や企業の英語化は、世代単位の推移を経て、いずれは日本語の衰退を招くのは間違いないだろうと考えています。経済や科学の分野で表現ツールとしての英語は、日本語より論理的に洗練されているからです。そして、日本語における経済や科学の表現の蓄積はやがて止まるでしょう。日本語で教育を受けた者は、ある段階から英語に切り替えなければなりません。ならば、最初から英語で高等教育を受けたほうが良いということになります。そうした兆候は現在でも観察することができます。英語環境での思考に慣れた若手の日本人研究者は、英語で多弁であっても、日本語では寡黙で、言葉を省く傾向が見られます。おそらく英語でやすやすと表現できることが日本語ではスムーズに表現できないからです。彼らは日本語には何の貢献もしないでしょう。最終的には、指導層・支配層の文化が問題であり、その点で日本文化はやがてアングロ・サクソン文化によって代替されることになるでしょう。現在韓国が歩んでいる道です。
その結果何が起きるかを、いまから考えておく必要があります。現在日本に対して盛んに言われていることは、「英語を学べ」、「移民を入れろ」、「もっと開放的になれ」ということです。要するに、「アメリカ文化を取り入れろ」ということです。しかし、日本や欧州の文化は、人口密度の高い環境で形成された文化であり、アメリカやロシアのような人口密度の低い環境で形成された文化とは異なります。日本語というのは、人口密度の高い環境で人々の衝突を避けるノウハウを蓄えてきた言語だと、私は考えています。日本語の核である「てにをは」は、話者が外界のイメージをどのような心的順序と軽重で観ているかの情報を、聞き手に伝え、教える道具であると思います。「てにをは」によって、日本語を母語とする者の間では、ある程度の心情の共有が可能になっています。それは他方で他人の心情が入ってくるということで、窮屈な心理感覚も与えますが。語彙においては、身体の生理現象を使った表現が多様ですから、生理感覚もある程度共有できます。そして、中国から取り入れた漢字は、基礎的イメージの組み合わせから外界の複雑なイメージを再構成する簡易辞書のような効率的なツールです。実際のところ、漢字の訓読システムは、それ自体が簡易辞書システムであるので、日本人には簡易辞書など必要ないのです。平均的な日本人は相当に高度な語彙も曖昧ながらも理解しますので、日本人の言語空間は非常に広く、棲み分けができるわけです。これが日本語の世界だと思います。
私は、日本語のことを考えてきたので、暗示的に「こうしたら英語教育がうまくいくだろう」ということも、示唆することができます。その幾つかをつぎに列挙しておきます。
(1)従来の英語教育は、英語の内容物を日本語に取り込むという意味で、日本語教育です。本来的には、高校および大学の教養課程などで学ぶべき技術だと思います。
(2)初等教育における英語教育は、体育や音楽と組み合わせた方が良いだろうと思います。haveや getや take等の基本動詞や前置詞を具体的な身体感覚に結びつける教育をすることが大切です。
(3)中等教育で使用する英語に関する辞書は、英英辞典を使わせるべきです。
(4)英語圏での教養を支える古典を、初等教育では和訳で、高等教育では原書のまま、必読リストとして明示しておくべきだと思います。
(5)外国語環境で学ばせた若手研究者が、日本語でのアウトプットを怠らないように、ある程度それを強制をするシステムを作るべきだと思います。
(6)欧米文化圏のリテラシー・批判的思考のプロセスを繰り返し経験させるような教育課程を組んでおくべきだと思います。
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