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2010-11-01 00:00
見えてきた中国側の内憂外患の手の内
杉浦 正章
政治評論家
首脳会談を拒否したかと思うと、翌日には10分間の「会合」をする。中国外交がここにきて揺れ始め、場当たり的側面を見せ始めた。尖閣事件に端を発した諸々の事象が、中国に「内憂外患」の状況を生み始め、深刻化の度合いを深めている。さすがの中国首脳も焦り始めた感がある。「反日デモ」が政府側の統制が利かずに「反政府デモ」化する兆し、レアアース禁輸をめぐる世界的な「中国異質論」の台頭など、難問山積で政権が板挟みの苦境に置かれた側面があるからだ。「外患」を大きく見ると、国際世論の「中国異質論」だ。「独善中国」批判は人民元切り上げ問題や、南シナ海・東シナ海への膨張政策をめぐって、欧米のメディアに既に存在していた。これがレアアースの輸出停止措置を、日本だけでなく欧米諸国にも拡大した10月半ばから、欧米の新聞論調が「中国異質論」の流れとなって統一されてきた。米国にも対中強硬論が台頭、ついに国務長官・クリントンが「中国への懸念が強まる同盟国をてこ入れするためのアジア歴訪」(『ワシントン・タイムズ』)という事態へと発展してきた。
「内憂」は、中国政府が官製の反日デモを中国共産党の重要会議である第17期党大会会期中に認め、政権批判の目を外に転じようとしたまではよかったが、これが逆目に出た。デモのテーマが格差や失業問題へとつながってきたのだ。その証左に香港や韓国のメディアが「反日デモ」の「反政府デモ化」を報ずるようになった。とりわけ10月26日の韓国メディア『サーチナ』は具体的だ。陝西省宝鶏市で発生した反日デモでは、反日スローガンの横断幕に混じって、「一党独裁反対」「報道の自由」「住居価格がとても高い」「不正腐敗解決」など、中国政府と社会問題に対する不満をしたためたプラカードも見られたというのだ。すぐに取り締まられたようだが、中国政府への批判が噴出、統制が取れなくなった初めてのデモだ。1989年の天安門事件は、胡耀邦を偲ぶためのデモから始まったものだが、暴動に発展している。中国政府は当面力で押さえ込むだろうが、大衆の直感力を甘く見てはいけない。13億のうち1億5000万だけが極端な富裕階級という厳しい格差の現状では、「愛国デモ」が「反政府デモ」と化しても全く不思議がない。
こうした中で中国政府は尖閣事件で日本政府が見せた醜態に匹敵する大失策を演じた。事態の状況把握を誤認して、日中首脳会談を突然キャンセルしたのだ。誤認というのは二つの点である。一つは、誤報では定評のあるフランスの通信社AFPの「日中外相会談でガス田交渉再開を合意」の大誤報を、日本側の意図的リークと真に受けたこと。もう一つは、日本が「他国と結託して問題を煽った」と日米外相会談を批判したこと。クリントンが前原との会談で尖閣諸島を日米安保条約の防衛義務の対象と明言した点だ。まずAFPは昔、担当記者から直接聞いたが、安保反対のデモで死者が出たときに東京支局長が「1人では少ない5人にしろ」と言った通信社だ。真に受ける方が“とろい”。クリントン発言は前から繰り返されてきたもので、びっくりするのは中国外交当局の勉強不足としか言いようがない。10月29日の首脳会談見送りから、一転して30日に10分の会談で取り繕ったのは、自らの誤判断がさすがに恥ずかしくなったのだろう。温家宝が菅に近づいて握手を求め、中国語の「会合」をした。前回の廊下会談に続き今回は10分間。明らかに国内向けには「会ってやった」と印象付ける会談だが、この10分間に意味がある。対日関係の決定的悪化はまずいとの外交上の判断が背景にあるからだ。中国の“堀の深さ”が意外と浅いことが分かって来た感じである。
一方、中国はメディアを使って外相・前原誠司を一点集中攻撃しているが、いま前原を辞任に追い込もうとしても無理だ。クリントンが提唱した日米中3国会談も、恐らく前原・クリントン会談で事前に決まっていたのだろう。菅が記者団に「いま初めて聞いた」と言ったことが怪しさを増幅させ、より一層事前調整の可能性を物語っている。中国政府も、中国の言うように日米が「結託」して揺さぶったら、「反政府デモ」に連動して自分自身に致命的にはね返る、くらいのことは分かった方がよい。中国は東南アジア諸国連合(ASEAN)の会議では、個別援助を頻発して膨張主義への批判を回避できたが、今月中旬に横浜で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)では国家主席・胡錦涛が出席するとされている。胡錦涛が首脳会議に出席となれば、失敗は許されまい。半月しか時間がない中で、ボールは中国側に投げられた感が濃厚だ。おそらく胡錦涛訪日のまえに、温家宝が菅との再会談を余儀なくされるのではないか。期限を切ったぎりぎりのせめぎ合い外交が始まろうとしている。それも中国側の手の内の浅さが見えた中での駆け引きだ。民主党幹事長代理・枝野幸男が10月31日、「日中関係がこじれているのは中国側に原因がある。関係修復のために日本側が働きかけていくことはない。すべての根源は尖閣諸島に関して中国が領海侵犯して、日本の法律に触れて問題になった」と述べているとおりだ。要するに、中国側が交渉可能な国内環境を整えるのを待てばよいのだ。日本は泰然自若としていることだ。
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