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2010-09-02 00:00
対中政治配慮のにじむ2010年版『中国の軍事力』
石垣 泰司
アジアアフリカ法律諮問委員会委員
米国防省が毎年米議会に提出している報告書『中国の軍事力』については、例年であれば3月に提出されているべき筈のものが、本年は理由が明らかにされないまま、提出が大幅に遅れ、如何なる事情によるものか取り沙汰されてきたが、ようやく8月16日になって提出され、内容が公表された。その内容は、米国および本邦主要各紙を含むメディアにより報じられた通りであり、概ね昨年版で述べられた見方の延長線上のものであった。
増大する軍事費の中味が不透明のまま、中国人民解放軍の近代化努力が年々加速されていることが指摘されている。とくに海軍の能力は、領域沿岸防衛を超えて西太平洋方面にも展開しうるる規模に拡大されつつあり、空母建設も本年中にも始まると指摘されている。しかし、それ以上のとくに驚くべき新しい重大な分析結果といったようなものはなかったようである。2009年版までとの明確な違いは、報告書のタイトルが、それまでの「中国の軍事力」(Military Power of the People’s Republic of China)から「中国にかかわる軍事および安全保障上の動向」(Military and Security Developments Involving the People’s Republic of China)に変わった位のものである。
このタイトルの変更は、国防長官に対し本年次報告書の作成を指示している米防衛費権限付与法の関係条文中の表現が10年振りに変わったためで、また同法規定の修正に基づき、2010年報告書より、米中間の軍当局の接触を含む両国間の安全保障問題に関する関わり(engagement)と協力の状況と、これに関する米国の戦略についての記述が、独立の1章として盛り込まれることとなった。従って、今回報告書の米議会への提出および公表が約5ヶ月近く遅れた理由については、公式の説明はないが、今回発表される前の報告書案において「中国の軍事力」の脅威を従来以上に強調したり、中国をことさら刺激する内容を含んでいたというような事情はなかったようである。
むしろ逆に、従来と同程度の脅威認識の記述でも、当時オバマ大統領訪中の外交日程や台湾へのミサイル等武器売却決定で冷却化した米中軍事関係等に照らし、中国側をさらに刺激しないようにとの政治的配慮が働き、報告書の内容にはとくに大きな改変を加えることなく、単純に議会への提出、公表を半年弱遅らせ、より無難な時期にこれを行うこととしたもののように思われる。そのような政治的配慮を象徴的に示しているのが、今回の報告書の巻頭の「要約(エクゼクティブ・サマリー)」の結論的部分の中で、オバマ大統領の「米中関係は意見の不一致や困難がなかったとはいえないが、両国が敵対者(アドヴァーサリー)でなければならないとの考えは、運命づけられたものではない」との言葉を、とってつけたように直接引用する形で、米中の不信を少なくし、相互理解の増進の必要を指摘していることである。
今回の報告書の公表後、中国国防当局は、いつもの通り、同報告書は、米国による一方的なもので、客観的事実を見誤っており、米中両国の関係の発展に資するものではないと非難し今後このような報告書発表の停止を求めるとの反応を示した。軍事・安全保障問題といった深刻なテーマに関する米国の恒例の年次報告書についての今般のような対中配慮による意図的遅らせ方は、大国らしからぬ小心翼々の態度を示すのであり、今後繰り返されることのないよう期待したい。
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