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2010-07-08 00:00
消費税で菅に選挙戦略ミスあり
杉浦 正章
政治評論家
7月8日で政権発足1か月の首相・菅直人は、参院選を前に手詰まりの窮地に陥った感じが濃厚だ。原因は、ただ一重に消費税増税路線が有権者から拒絶反応を受けていることに尽きる。この選挙戦略ミスをなぜ起こしたかだが、背後には歴代首相が陥りやすい首相就任直後の“高揚感”がある。与党過半数割れが確実視される中で、選挙後の大波は避けられない。駆け出し政治記者や民放テレビは、消費税で菅がぶれていると判断するが、見方が浅薄だ。菅がぶれていないのが、民主党にとっては問題なのだ。就任早々消費税増税を言いだし、自民党と同じ10%を公約化し、低所得者への還付まで発言していることを忘れている。6日に「私の説明不足だった。申し訳なかった」と陳謝したことが、“ぶれ”と形容するほどのことだろうか。全く違う。ぶれていないのだ。いまさらぶれようにも手遅れなのだ。
消費税導入発言は、政治家としてはむしろ天晴れな部類に属する。小泉純一郎が消費税を逃げまくったのに比べれば、菅は政治家としての心情、責任を率直に吐露しているからだ。実際、消費税なくして、日本の政治は成り立たない状況にまで来ている。もう“節約”のきれい事では、間に合わない規模の財政赤字なのだ。しかし、選挙戦略としてみた場合は「戦略ミス」の一言に尽きる。なぜこの戦略ミスを犯してしまったのかというと、冒頭挙げた高揚感だ。長年官邸を観察していると、この高揚感がまず新任首相を動かすことが分かる。田中角栄が日中国交回復に一挙に動いたのもそうだ。消費税では大平正芳の一般消費税構想、細川護煕の国民福祉税構想がそれだ。就任早々は高揚感が使命感となり、「歴史に残る偉業」を達成したくなるのだ。まさに落とし穴にはまり得る感情の顕在化だ。
菅の場合も条件はそろっていた。就任早々の全国紙社説では「消費税導入が最大の課題」と書いてある。「これで世論は大丈夫」と踏んだのだ。しかし市民運動家にしては、大新聞の社説と一般大衆の反応が時として全く正反対になることを知らなかった。消費税では昔からそうなるのである。これが第一の誤算だ。加えて、自民党も消費税10%への増税を主張しており、これに“抱きつく”ことで相打ちになるとの判断だ。しかし、野党の主張と政権党の主張とは、国民に与える印象が月とすっぽんほど異なるのに気づいていなかった。案の定、有権者の反応は自民党に向かわず、菅政権へと向かいつつあるのである。これが第2の誤算だ。
こうして選挙情勢は、共同通信の分析によれば、過半数割れはもちろん、50議席を割って40議席台にまで落ち込みかねない、といわれる事態となった。政権サイドは手詰まり感が濃厚だ。菅が「人事を尽くして、天命を待つ」と述べれば、官房長官・仙谷由人は参院選の見通しについて「神のみぞ知るということ」と、もっぱら神頼りの発言をするに至った。当然小沢一郎など民主党内から、それ見たことかの反応が生ずることは目に見えている。ただたたき上げの菅が大人しく引き下がることはあるまい。二枚腰、三枚腰のしぶとさが身上だ。
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