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2010-05-29 00:00
「官益」自己保存のグロテスクな論理
入山 映
サイバー大学客員教授・(財)国際開発センター研究顧問
権力側の策略、あるいは官僚の思惑に、鳩山内閣はとんとナイーブだ、とお見受する。ただし、策略とか思惑と言うと、腹黒い官僚が何人か秘かに集まって、膝つき合わせて陰謀を企んだり、次官会議を開いて「どう騙すか」を討議したりするイメージがあるとすれば、それはまるで違う。そうではなくて、ある制度が定着し、威力を振るうということは、その枠組みの中に一種独特の論理が成立し、それが着実に自己増殖してゆく、という過程のことを表現している。
例えば、あの度し難い「お役所仕事」、スリッパをペタペタさせながら、窓口にどれほどの行列ができていようがいまいが、一切お構いなしに悠然とお仕事をなさるのは、別に納税者を小馬鹿にしたくてやっているのでもなければ、人間の感情というものに無頓着な訳でもない。それが証拠には、家へ帰れば良き父であり、妻である。さらに彼らの勤め帰り、赤提灯での上司批判や世相に対するご意見などを聞いていれば、極めてまともなホモサピエンスだ。だから、人間の出来がおかしいのではなくて、職場における達成度評価が顧客満足とは全く無関係なところにおかれているから、というに過ぎない。それが前例尊重であったり、事なかれであったり、文書主義であったり、繁文縟礼であるのはほんの一例で、要は、無理が無理と認識されないままに通ってしまう結果、道理が引っ込んでしまったという認識さえない、というのに近いだろうか。
お役人の悪口が言いたくてこんなことを書いている訳ではない。お役人を律する論理構造にはそれなりの存在理由と経緯があり、それに適した仕事をなさっている分には、極めて穏当であり、適当なのだ。前例尊重、法規万能それ自体が悪い訳でもなんでもない。交通違反取り締まりのおまわりさんや、徴税執行の税務署職員が臨機応変に柔軟な裁量などされては困る。ところが、ことがおかしくなるのは、本来すべきではない、してはいけない仕事まで、お役人が進出しようとするからであり、一旦そういう仕事が始まると、塩の保管や宝くじの宣伝のように、自己保全と既得権益保存の対象に成り果て、グロテスクな結果を招来する、ということだ。
公益法人への「官」の関与には例外なく、このマイナスの影響がある。公的サービスの提供それ自体に「官」が関わろう、影響力を行使しようとするから、ろくなことにならないのだ。公的サービスの提供は、ほとんどの場合税金を原資として行なわれる。だから、その公正な執行の監督に言を藉りて、様々な介入が正当化される。そうはさせじと、そのような場面で、いかに先に「民」の主体的関与を保証する仕組みが作れるか、の知恵が問われている。そこをとり違えて、民間の非営利組織(これについては別に触れる。とりあえずはまともな公益法人やNPOのことだ、くらいに考えていてほしい。公的サービスを「官」に代って提供する民間の主体のことである)が税金に過度に依存するのはよくないとか、税金をつかうのだからオカミの監督は当然だ、といった俗論がはびこるのは困ったものだ。
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