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2010-05-11 00:00
問われる鳩山首相の安保感覚
花岡 信昭
拓殖大学大学院教授
鳩山首相が普天間問題で沖縄入りし、知事らと会談した。5月末決着の期限までわずかしか残されていないが、この首相の安保感覚が改めて明らかになったことが、沖縄訪問の最大の収穫といえそうだ。それにしても、沖縄の伝統衣装を着用して現地入りするというのは、いくらなんでもやりすぎだ。日常のネクタイなどは幸夫人が選んでいるそうだから、今度もまた夫人のアドバイスによるのだろうが、首相の「軽さ」を一段と印象づけてしまった。
普天間移設の協力要請に対して、知事らは一様に抵抗したが、これは行く前から分かっていた話であって、驚くに当たらない。注目すべきは、首相が「海外や県外への移設も考えたが、抑止力の観点から沖縄の重要性に思い至った」という趣旨の発言をしたことだ。そんなことは、はなから分かっているわけだが、首相の認識不足をなじる前に、沖縄の現地でこういう発言をしたことを重く受け止めたい。なにせ、一国の政治リーダーの発言なのだ。普天間問題は日米間で4年前にキャンプ・シュワブ沿岸部への移設で基本合意していたのだが、首相が「沖縄のみなさまのお気持ちを・・」うんぬんと言いだしたことから、20年前の状況に戻ってしまった。
本土での闘争目標を失った左翼陣営にとって、沖縄が格好の闘争拠点として再浮上した。「米軍基地の74%が沖縄にあり、沖縄が一手に犠牲を引き受けている」といった情緒的主張は、現地にはきわめて受けがいい。結論的にいえば、沖縄は基地との「共存共栄」以外に生きる道がない。米軍基地を国内各地に分散配置できれば、これにまさることはないのだろうが、いまさらそんな非現実的なことを言い出しても、はじまらない。むしろ、沖縄の人たちには、日本の安全保障の要石になっているのだという誇りと自負心を求めたい。先の戦争で唯一の本土決戦の場となったのは事実だが、それを言い出したら、広島、長崎、さらには東京をはじめ空襲の惨禍に襲われた地域はいくらもある。
沖縄は地政学的にいっても、朝鮮半島、台湾海峡をにらむ好位置にある。仮に東アジア地域で火花が散る可能性があるとすれば、このいずれかだろう。そこに、鳩山首相が沖縄の現地で「抑止力」に言及した意味があると思いたい。首相の発言は「沖縄の海兵隊を県外、国外に移すとなれば、抑止力の観点から問題がある」ということを意味する。つまり、これは沖縄の感情といった県内問題なのではなく、日本や東アジアの安全と平和を担保する抑止力の次元で対処するという基本姿勢を、沖縄で示したということになる。国家的次元で判断するという宣言である。以上の受け止め方が違っていなければ、鳩山首相は国家リーダーとしての責任において、最終決断をくだすという局面がやってくるはずだ。沖縄の現地がいかに反対しようとも、やりぬく覚悟が備わったということか。ならば、これは大歓迎である。
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