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2010-04-19 00:00
「同日選」とは、与野党うそつき合戦
杉浦 正章
政治評論家
これほど見え透いた嘘つき合戦もめずらしい。与野党のポンポコタヌキとキツネが「同日選だ、同日選だ」とうそをついて回っている。政権側は追い込まれると必ず出る「ダブルで圧勝」の脅し。野党側は参院選を他人事のように考えている衆院議員への脅し。中には「小沢なら、脅しと見せかけて必ずやる」という複雑な脅しまで混ざっている。そもそも最初に言いだしたのは、自民党で落選中の船田元だ。栃木県の下野新聞が書いている。われながら情報収集の執念にはすごみがある。下野国(しもつけのくに)の新聞にまで眼が光っているのだ。
同紙によると、総裁・谷垣禎一ら党執行部がさる5日に現職以外の衆院選選挙区支部長や 参院選立候補予定者らとの懇談会を開催した際、「本県から」出席した船田元が、民主党の小沢一郎幹事長の選挙戦略について「衆参ダブル選挙だってやるかもしれない」と指摘したというのだ。そして自民党では未定の小選挙区や支部長が少なくないことから「支部長を早急に決め、準備を進めるよう」求めたというのだ。船田は記者団にも「今、衆参ダブル選挙をやられたら、自民党はむちゃくちゃに なってしまうので、執行部はそうしたことも考えて、戦略をきちんと練って対応していくことが必要だ」と述べたという。さすがに“鈍感”な執行部もやっとこの発言の狙いに気づいて、幹事長・大島理森が13日 「普天間で追い込まれた鳩山政権が、状況を打開するため、何をするかわからない。来月末までに結論が出せなければ、国民に信を問うことがありうるかもしれない」と述べれば、これまで余りうそをつかなかった政調会長・石破茂までが14日、「ダブル選挙の可能性が非常に高い」と、“非常に”までくっつけて発言した。
船田発言の「狙い」とは何かを説明すれば、昨年の総選挙敗北で脳しんとうを起こしたまま、選挙区回りもろくにやらない衆院議員候補らの目を覚まさせるところにある。海千山千の議員はだませなくても、下部組織は「ダブル」の声に目覚めるのだ。発言だけで、選挙資金ウン十億くらいの価値を持つのだ。落選議員が「ダブルらしい」と言うだけで、動きが始まるのだ。赤貧自民党にとって、これほど有り難い言葉はない。言うだけで常在戦場の危機感を保てるのだ。まかりまちがって、小沢がダブルの誤判断を下せば、一挙に政権復活も夢でなくなる。うそをついて損はない。
いっぽう与党側は、国家戦略相・仙谷由人が18日の民放テレビで「1年で申し訳ないが、もう1回ダブルで信を問うことがあるかもしれない。論理的にはそういうことになる」とのたもうた。どうして常日頃発言に論理性が欠けているお方が「論理的」というのかは分からないが、こちらの狙いは、政権が追い込まれると毎度出てくる「ダブルの脅し」だ。「普天間で鳩山を辞任に追い込むなら、解散で切り返すゾ」というわけだ。もっとも政権与党側の脅しは、勝つ見込みがあるときに行われる。過去2回のダブルは与党側の圧勝だったが、逆風が吹いているときにダブルをすれば相乗効果どころか、衆参相互減殺効果で両方とも過半数割れとなりかねない。朝日新聞の世論調査で、内閣支持率が何と危険水域とされる25%にまで急落、10%台も目前となった。これでダブルをすれば面白いことになる。せっかく取った308議席にすがって生きていくしか民主党政権の生きる道はないのに、手放せるわけはない。したがって伝家の宝刀を抜くぞと見せかけても、実は竹光だから抜けないのだ。かくしてタヌキとキツネのだまし合いは、狙いが180度別のところにあり、すれ違いのまま痛み分けとなるのだ。
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