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2010-03-18 00:00
(連載)冷戦終焉後の日本政治を考える(3)
袴田 茂樹
青山学院大学教授
わが国はある意味で、ロシアや欧米諸国以上に、深刻な問題を抱えている。冷戦時代においても、ロシアや米国はもちろん、イギリス、フランス、ドイツも国家主権とか安全保障の問題に、日本よりもはるかに真剣勝負の態度で対応していた。思い出されるのは、1967年の「東ベルリン事件」である。西ドイツに留学中の韓国の知識人たちが韓国中央情報部(KCIA)によって拉致され、帰国させられた事件だ。西ドイツは主権の侵害であるとして、政治的には反共国家として同じ立場にある韓国に国交断絶を突き付けて、北朝鮮のスパイなどの廉で死刑や無期懲役の判決を受けた17人の韓国人全員を、その年の内に取り戻した。
わが国は、安全保障の問題は米国に委ねて、ひたすら経済的な実利を追ってきた。つまり国家主権とか国益、安全保障という観点からみると、完全に「去勢」された国家になり下がっていた。日本政府や政権党である自民党でさえも、そのことを空気のように当然のことと受け止めてきた。ましてや、自民党時代に政府や国家を批判することを主眼にしてきた旧野党、つまり現在政権の座についている多くの政治家に、国益とか安全保障に関して、リアルな感覚があったとは、とても思えない。
民主党政権は、沖縄基地問題に関する自民党時代の日米間の合意は、政権が代わればキャンセルして当然だと考えていた。十数年かけて「奇跡的」に達成された普天間基地に関する合意がキャンセルされても、その代案は簡単に見つかるし、それを米国に呑ませることもできると考えていた。これらはすべて、現政権が軍事問題や安全保障の問題をいかに軽く考えているか、あるいはそれに関していかに無知であるかを示している。2月24日の読売新聞は「現政権は、普天間の合意を簡単に覆すことができると軽く考えていた」との記事を載せている。現政権は、県外移設の具体策も、国外移転となった場合のわが国独自の国防・安全保障戦略も欠いたままで、「友愛外交」「東アジア共同体」といった観念的な議論を続けてきた。同じ2月24日、沖縄県議会は基地の県外移設要求意見書を採択し、鳩山首相はこれを「民意の表れと受け止める必要がある」と述べた。国家の安全保障の問題を、地方の市長選挙や県議会の決議に委ねること自体、この問題をいかに軽く考えているかの証でもある。
ここに述べた問題は、単に鳩山政権の問題だけではなく、これまでの日本政府や自民党も含めた日本国民の政治意識全体にかかわる問題でもある。冷戦終焉後20年、冷戦構造の下で抑制されていた国益とか主権の問題が、かえって浮き彫りになっている今日、われわれは日本人の政治意識や日本政治の在り方を根本的に考え直す必要がある。(おわり)
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