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2010-03-11 00:00
外交・安保政策の裁量の幅を狭めるな
花岡 信昭
拓殖大学大学院教授
日米の「核密約」問題は、有識者による報告書が出たのだから、これで打ち止めにすべきだ。自民党政権時代の「ウソ」を暴き立てるのが、鳩山政権の目的のように見えるが、声高に騒げば騒ぐほど、政権の幼稚さが際立つことになる。この種のことは、外交秘話として歴史の中におさめておくことだ。それが賢明な政治というものだ。だいたいが、日本の安全保障はアメリカの「核の傘」を基盤としているのである。その有効性に傷をつけてはならない。
密約の存在を一部にしろ認めるのは結構だとしても、これによって、「非核3原則」で日本の外交、安保政策の枠をがちがちに縛り付けるのは、愚策以外のなにものでもない。いざ有事というときに、アメリカの核の傘が有効に機能しなかったら、どういうことになるか。そのほうがはるかに恐ろしい。日本政府はこれまで、米側から事前協議の申し出がなかったから核持ち込みはなかったと判断する、という基本方針を取ってきた。これでいい。これが政治の巧緻というものである。実態としては、アメリカの核は潜水艦発射ミサイルが主体となっているから、今後、核の持ち込み、一時寄港が現実のものとなることはまずない。
もっとも、有事となれば別だ。そのときには、最大限の力を発揮してもらわないと困る。宮沢喜一氏から生前に聞いた話を思い出している。外相当時のことだ。外務省内で「非核3原則を2・5原則にしたい」という構想が検討されていることを知ったという。一時寄港は認めようというものだ。リベラルの代表格の宮沢氏らしいところだが、これを聞いて、ただちにやめさせたという。その理由がいかにも宮沢氏のリアリズムを象徴している。「2・5原則への変更を言い出したりしたら、反対派がデモ船を大量に動員して東京湾を埋めるだろう。これを1週間もやられたら日本経済はもたない。いま、国論を二分するような話を持ち出す時期とは思えない」という理由だ。
外務省内でひそかに検討されていた「2・5原則への変更」は、宮沢氏の指示により立ち消えとなった。非核3原則にしろ、武器輸出規制にしろ、日本の安全保障をあやうくする縛りが多すぎる。こういうことをやっている先進国がどれだけあるか。外交・安保政策の裁量の幅を自ら狭めてしまっては、抑止力もなにもあったものではない。民主党政権に発想の大転換を求めてもムダであることは百も承知しているが、一見「よいこと」のように見える方針が、実はもっともあやういのだ。
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