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2010-03-09 00:00
沖縄も、安保も、米国の世界政策との絡みを「値踏み」せよ
入山 映
サイバー大学客員教授・(財)国際開発センター研究顧問
米下院外交委員会は3月4日、「オスマン・トルコ帝国が1915〜23年に実行したジェノサイド(民族大量虐殺)で、アルメニア人150万人が殺害された」と非難する決議を23対22の賛成多数で可決した。われわれの感覚からすると、「なぜ今頃20世紀初頭のオスマン帝国の話を蒸し返すのか」と奇異に感じるのだが、実はその裏面には生々しい国家間・民族間の駆け引きがある。先ずアルメニアだが、同国はおそらく史上始めて(4世紀初頭)のキリスト教国家だ。数奇な運命をたどって今日の独立国家になるのだが、現在アゼルバイジャンとの間にナゴルノ・カラバフ紛争を抱えているのは周知の通りだ。紛争の原因は、同地域に住むイスラム教アゼルバイジャン人の帰属問題である。アルメニアは米国に強力なロビー組織を持ち、ナゴルノ・カラバフ紛争についても、米国がこの地域に対して中立的支援さえできないような決議案を採択させたことでも知られている。
他方、アゼルバイジャンは同じイスラム教のトルコと親密な関係にあり、歴史認識や地域の問題状況についても認識を共有することが多い。アルメニアとアゼルバイジャンの反目に宗教的要素があるのは明らかだが、この地域のキリスト教対イスラム教という単純な図式をさらに複雑化させる要素として、最近イスラエルが石油資源の輸入や、宿敵イランに関する情報収集という意味から、アゼルバイジャンへの接近度を高めているという事実を挙げることが出来るだろう。それは在米ユダヤ・ロビーとアルメニア・ロビー組織との伝統的な共闘関係に微妙な影を落としている。そんな最中の下院決議は、トルコ・アゼルバイジャン枢軸に対する米国の非支持声明という色彩を帯びる。とても第一次大戦前の古証文の再確認どころの騒ぎではないのだ。
他方、いうまでもなくトルコは、NATOにおける米国の同盟国であり、のみならず対イスラム圏外交のよきパートナーの役割も担っている。米国が仕掛けたトルコ・アルメニア友好関係樹立がうまくゆかず、その揺り戻しのような下院決議になった訳だが、ことほどさようにこの地域での外交関係は様々な火花を散らしている。世界中いたる所での米国のこうした「関与」をお節介と見るか、この国の基本的外交スタンスと見るか、意見は様々だろうが、米国外交の視野が世界大のサイズであることに間違いはない。
だから沖縄問題、日米安保問題にしても、ことは局地的な事態処理の話ではなく、米国の世界政策としての位置づけを念頭に置かないと、まともな交渉にはならないように思う。何も米国の世界政策の為に日本の国益や沖縄県民の意向を犠牲にせよと言っている訳ではない。ただ、交渉の対象になっている事案の「値踏み」と「位置づけ」がしっかりできていなければ、世界第二(まだ当分は大丈夫なようだ)の経済大国の外交としては、お粗末のそしりを免れまい、と言っているのだ。
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