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2010-03-10 00:00
政府は「非核2・5原則」の検討に入るべきだ
杉浦 正章
政治評論家
重要報告書は長文でも最後まで読まなければいけない。いわゆる核密約に関する有識者委員会報告書は「政府のうそと不正直」を指摘しながらも、「終わりに」で「外交交渉に秘密性はつきもの」として密約に肯定的な見解を表明している。筆者も、冷戦集結以前の自民党政権の密約対応と冷戦後の海部政権以降の「うそ」は、峻別しなければならないと思う。外相・岡田克也が鬼の首を取ったように「政権交代の成果」と強調するのは間違いだ。とっくに米国では明らかになっている話だし、元事務次官・村田良平らが昨年いわば体制内から問題提起しなければ、岡田に問題意識があったかどうかは疑わしい。さすがに政権は「非核3原則法制化」までは口をつぐんでいるが、むしろ冷戦構造が一段と色合いを濃くしている北東アジア情勢を眺めれば、有事の核艦船の寄港・通過は認める「非核2・5原則」こそが、抑止上必要となるのではないか。
報告書は、核搭載艦船の日本寄港などで「広義の密約」を認定した。戦後最大の密約の存在を事実上認めたことになるが、この問題をワシントンでラロック証言の時から取材していた筆者にしてみれば、米国でとっくに明らかになっていたものを、総じて追認したに過ぎない。しかし、民主党政権下における有識者委員会にもかかわらず、全体的には平衡感覚の見られる報告書だ。冒頭述べたように、「終わりに」で「外交交渉はある程度の秘密性はつきものである。ある外交が適切なものであったかどうかは、当時の国際環境や日本国民全体の利益に照らして判断を下すべきものである」と強調している。
確かに、この問題のすべては、東西冷戦の位置づけとその解釈にかかっている。民主党のルーツの一つである社会党が、ソ連や中国共産党から“物心両面”の支援を受け、社会主義革命を日本で達成しようとしていた状況。ベトナム戦争は、共産主義のドミノ戦略が現実のものになりつつあると真剣に考えられた情勢。国民の反核感情を党勢維持の糧として、自民党政権に対決した社会党。これらの背景の中で岸信介政権以来、冷戦終了までの政権が、密約として苦渋の選択をしたのは、むしろ賢明であったとさえ言わざるを得ない。密約は、ソ連邦崩壊、国際共産主義運動阻止の遠因として作用したことは間違いない。ひいては、極東において冷戦崩壊の実現に大きな役割を果たしたことにもなる。TBSのキャスターが「歴史に対する背信行為だ」などと述べていたが、逆だ。密約は歴史における必然であり、自由主義経済繁栄の基礎だったのだ。
しかし冷戦構造が崩壊し、ブッシュ・ゴルバチョフ会談の合意に基づき1991年に水上艦艇からすべての戦術核兵器が撤去されたにもかかわらず、海部政権以降20年間にわたって「うそ」を言い続けたことは、問題である。そこには政権と外交当局の保身の構図がみられる。柔軟性の失せた長期自民党政権の動脈硬化現象としか思えない。1981年5月に「核兵器搭載の米軍艦艇は、日本側の否定にもかかわらず、日本の領海を通り、港に立ち寄っている」と暴露した元駐日大使・ライシャワー発言の時点では、時期尚早にしても、1989年のベルリンの壁崩壊後は、密約の存在を認めるべきだった。特に昨年村田良平が密約の存在を明言した時は、最後のチャンスだった。しかし首相・麻生太郎は、問題の在りかを掌握出来ず、従来路線を踏襲してしまった。これが民主党政権に逆手を取られる結果となったのだ。
問題は今後の対応だが、あれだけ公言していた「非核3原則」の法制化を、首相・鳩山由紀夫も社民党党首・福島瑞穂もなぜか言わない。さすがに普天間問題に加えて、もう一つの日米あつれきの原因を作り上げることは、はばかられるのであろう。逆に北朝鮮の核武装、中国の軍事拡張路線に直面している北東アジア情勢を正視するなら、核艦船の寄港・領海通過などは認める「非核2・5原則」を真剣に検討すべきであろう。ライシャワー発言の真意も「非核2・5原則」を目指してのことであったのだろう。朝日新聞は3月10日付の社説で「最悪事態の想定に引きずられて、非核3原則を見直すのは本末転倒」と主張しているが、最悪事態というものは、発生してからの対処では遅いのだ。北や中国への抑止効果を考えても「非核2.5原則」は推進に値する構想だ。読売は「米軍の核抑止力を機能させるため、『持ち込ませず』のうち、核兵器の日本国内配備の禁止は継続するとしても、寄港・通過などは除外することを、政府は真剣に検討すべき時である」と主張しており、産経も同趣旨だ。毎日の社説と日経の社説は将来への問題意識に欠けており言及していない。
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