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2010-03-05 00:00
普天間「県内」移転で退路断った鳩山政権
杉浦 正章
政治評論家
キャンプ・シュワブ陸上案の提示は、名護市に対しては民意を「斟酌しない路線」であり、社民党に対しては「連立崩壊黙認路線」であり、対米関係では「公約無視路線」である。それでも陸上案を軸に展開せざるを得ないのは、無責任に国外、県外を示唆し続け、沖縄県民に過度の期待を抱かせてきた首相・鳩山由紀夫にツケが回ってきた結果に他ならない。事実上3月中の決着となれば、少なくとも「県内」以外は考えられまい。鳩山は好むと好まざるとにかかわらず、退路を断って“火中の栗”を拾わざるを得ない状況となった。まさに進退窮まった感じだ。
「何1つ提案したというのは、事実でない」と鳩山は頭から否定するが、「ぴよぴよ鳩」で信用できない。それでは、3月2日に官房長官・平野博文と防衛相・北沢俊美が駐日大使・ジョン・ルースと極秘裏に会談して、何を語りあったというのだろうか。あらゆる情報を総合すれば、日本側は大きく言えば「現行計画の断念と県内移転」の選択を提示したに違いない。具体的にはシュワブ陸上案を軸として、ホワイトビーチ埋め立て案なども提示しているだろう。その証拠が翌日3日の下院公聴会における国務次官補・キャンベルの証言だ。「他の提案の多くに目を通したが、やはり現行案がベスト」と言い切っているのである。外交官が「提案」もないのに「提案」と言うはずがない。もちろんルースも即座に強い難色を示したと言われる。ルースは5日に帰国して調整するが、キャンベルが中旬の来日で妥協を持ってくるかどうかは予断を許さない。結局普天間の継続使用となれば、鳩山は責任問題に発展することを覚悟すべきだ。鳩山にとっては「進むも地獄、退くも地獄」の選択になり得る。
加えて、社民党が県内移設では常軌を逸した行動に出る可能性がある。同党国対委員長・照谷寛徳は「体を張って阻止する」と、現地でピケを張るなどの実力行使を宣言している。政権内部で実力阻止の動きが出れば、これはとりもなおさず3党連立の崩壊に他ならない。鳩山に社民党を切る腹が据わっているとも思えないが、流れはそうなる。鳩山の優柔不断さが原因となって、名護市長選にもつれ込み、埋め立て案も陸上案も反対の市長を誕生させてしまったが、直後に平野は「選挙結果を斟酌しない」と言明。その結果が、陸上案提示につながったことになる。こうした経緯や直面した困難を理解してか、しないままか、鳩山は4日「できるだけ早く決めたい。3月中のいずれかの時点に政府の考えをまとめなければならない」と述べた。米側との交渉を念頭に5月決着に持ち込むための国内とりまとめの前倒し宣言と言うことになる。しかし5月でもとりまとめ困難と見られているのに、鳩山に調整能力が発揮できるだろうか。米側の大幅譲歩がない限り極めて疑問だ。
国論も、県内か県外かでは真っ二つに割れたが、鳩山の優柔不断が事態の混乱を招いたという指摘では共通している。読売は、2月28日の「もう八方美人では済まされぬ」とする社説で「首相はいつまでも社民党の非現実的な手法に振り回されるべきではない」と社民党切り捨て論を展開。「自らの不手際で困難になったとはいえ、県内移設の方向性を早期に打ち出すべきだ」と「県内」支持を鮮明にしている。これに対して朝日は、5日の社説で「いきなり県外の不誠実」と題して、こちらは「連立与党の社民党も反対である」ことなどを根拠に「最初から県内では、県民ばかりか、国民の理解も得られない」と強調した。筆者は「国民の理解」に関しては、朝日とは異なる。常識的世論は、沖縄県民に同情しながらも、日米安保体制堅持のためには、県民の負担軽減の上で「県内」やむなしにあると思う。朝日は社説で「国民」の2文字を使う時は心すべきであろう。
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