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2010-03-04 00:00
日豪NZ関係に影を落とす捕鯨問題
石垣 泰司
アジアアフリカ法律諮問委員会委員
日豪関係は、1970年代に豪州に在勤し、また3年前日豪交流年に再訪したときの個人的経験に照らしても、伝統的に非常に良好であり、今日も基本的になお良好であることは喜ばしい。 しかし、1970年代以降暫くは、両国間の貿易・経済関係で日本が優位にあり、豪州が日本に依存する関係にあったのに対し、近年は、中国が豪州資源の買い付けに積極的に乗り出したこともあり、優劣関係は逆転し、伝統的顧客であった日本の関係企業は、中国企業と競争して、高値による輸入を余儀なくされているなど、相互の関係はかなり変質しているようである。FTA協定についても豪州は、日本と早期締結を望んでいるが、日本側は農業分野に大きな影響があるところから、交渉は余り進展していないようだ。その一方、日豪両国の政治・安全保障上の関係は、普遍的価値を共有する民主主義国家同士として緊密かつ強固なものとなっており、外相レベルでの定期的協議が行われ、さらに近年日米豪3国の外相協議の枠組みも動き出している。
そのような中で、日豪協力関係に影を落とすものとして、最近にわかにクロ-ズアップされているのが、捕鯨問題である。捕鯨問題について日豪両国の立場が大きく異なることは、今始まったことではない。捕鯨問題、とくに調査捕鯨について、日本の立場は条約の規定に基づく筋論であるのに対し、豪州の立場は「鯨の殺戮は許せない」といういわば感情論である。シー・シェパード号の暴力を伴う過激な行動が騒がれるようになってから、豪州国内において日本の調査捕鯨に対するメディアの関心が高まり、豪州政府は「過激な行動を容認するものではない」としながらも、調査捕鯨には反対であるとし、ラッド首相は、これを外交的手段でやめさせられなかった場合には、次の調査捕鯨シーズンが始まる今年11月までに、国際司法裁判所(ICJ)に提訴する意向であることを明らかにした。
豪州政府のそのような動きは、年内にもありうるとされる総選挙との関連もある国内向けとの見方もあるが、必ずしもそうでもなさそうである。岡田外相は、日豪外相会談のため2月20、21日に豪州を訪問し、ラッド首相、スミス外相と会談し、事後の発表では核・安保協力、FTAの問題についても協議したとされているが、岡田外相が帰国後記者会見で述懐したところによれば、両会談での話し合いの中心は、専ら捕鯨問題となってしまったようである。日豪両国は、ASEAN+6の東アジア・サミットの構成国であり、岡田外相は外相会談で東アジアにおける今後の地域協力について話し合いを行うつもりである旨ラッド首相に述べていたが、結果的には地域協力問題については、首相との会談でごく簡単な言及が行われただけで、外相会談では時間がなく、全く触れられなかった模様である。捕鯨問題については、ニュージーランドも豪州に同調する動きを示唆しているとの報道もあるだけに、同問題が東アジア・サミットにおける日豪NZ間協力へいささかなりとも悪影響を及ぼすことのないように、願うものである。
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