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2010-01-31 00:00
失笑を買った鳩山首相の施政方針演説
入山 映
サイバー大学客員教授・(財)国際開発センター研究顧問
オバマ大統領(1月27日)と鳩山首相(29日)の施政方針演説を、短期間の間に両方聞くことが出来た。両者の演説の内容と質の比較は、この際控えることにする。オバマ大統領は希有の演説の名手であり、彼がこれまでに行なった演説の数々は、彼を無名の一議員から大統領にしたし、一人のアメリカ大統領から、非核世界に向けての旗手にした。今回の State Of The Union の演説にしても、国内事情多事の折を受けて、「内向き」の批判は受けたものの、絶妙の話術とその内容には、舌を巻くものがあった。それにしても、いつも不思議に思うのだが、演説原稿を手にしていたことがない。プロンプターがあるようには見えないし、1時間に及ぶ演説内容を完全に諳んじているのだろうか。だとすれば、それほどまでにパブリック・アドレスというものの重要性と影響力を認識している、ということだろう。前にも述べたが、「巧言令色鮮きかな仁」という風土からはなかなか出てこない文化だろう。
それにしても。鳩山首相の演説には参った。「いのち」「いのち」と繰り返し、挙句の果てに瓦礫の下に一命を落とした被害者の情景描写だ。一国の総理が、この多難な時期に責任ある行政の方向を示す内容とは、とても思われない。「いのち」の重視が悪い訳ではないし、災害で命を落とした方に対する共感ももっともだ。しかし、政治家というのは、少なくとも施政方針演説では、歯の浮くような理念だけではなく、それをいかに実行してゆくのかについて、言明がなければなるまい。思うに、首相側近には「現場の問題点」を把握し、それを総合的な形で耳に入れるブレーンが欠落しているのではないか。例えば鳴り物入りの「新しい公共」にしても、現在ただいま、民間非営利組織・公益法人に対する法制度に一体どれほどひどいことが起っているのか、ご存知だったら、あんな能天気な演説にはならない筈だ。
官僚を斥けるのは結構だ。官僚の言いなりにならない気概もよしとしよう。しかし、それが「王様の耳は、ロバの耳」になっては、国民はたまったものではない。この首相はお育ちが良いせいか、「こうならよいな」「こうなってほしいな」と思いさえすれば。口に出しさえすれば、その実行に向けての青写真が、ああら不思議、たちどころに用意される、とお考えなのではないか。そこへ持ってきて、現場の問題点がどこにあるかについて的確なブリーフィングを受けていらっしゃらないようだ。だから、谷垣氏が言っているように、ピントのずれた問題意識に思い入れたっぷりにブンガク的な台詞を熱演しても、失笑を買うようなことにしかならない。
あの熱気の中で登場した鳩山政権は、いまや広報戦略のまずさもあって、ほとんど死に体同然に見える。問題を先延ばしにするのではなく、完璧を求めるのではなく、真摯に検討した過程と結果を国民に周知させるべきだ。「ツィッターだ」「国民の声を聞くだ」と小手先の利いた芸人みたいな思いつきに振り回されているのではなく、王道を進んでほしいと、心から思う。折角動き始めた日本の政治を、首相と幹事長のコンビが烏有に帰そうとしているのを黙視は出来ない。第一。民主党に人も多いだろうに、なぜ声が出ないのだろうか。巷間伝えられているように、小沢さんがそんなに怖いのだろうか。日本の民主主義は小沢一郎ごときと刺し違えるにはあまりにも重いと思うのだが。
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