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2010-01-07 00:00
「イラ菅」登場で「高転び3兄弟」そろいぶみ
杉浦 正章
政治評論家
小沢邸の新年祝賀会で万歳三唱の音頭を取ったのが利いた、と言えば分かりやすい。後任財務相に菅直人が決まったが、首相・鳩山由紀夫にとっては「もろ刃のやいば」人事だ。テレビの座談会で菅を観察していると、早ければ5分、遅くとも10分で怒り出す。「イラ菅」たるゆえんだ。当然自民党はそこを突き、失言を引き出そうとするだろう。管は論客で、攻めには強いが、守りには弱い。自ら発案したマニフェストの矛盾が最大の焦点となる予算委論戦は「菅失言で、度重なる審議ストップへ」というところか。繰り返すが、万歳三唱は絶妙のタイミングだった。というのも、藤井裕久が辞任の意向を鳩山に漏らしたのは、実は小沢が官邸に乗り込んで藤井を怒鳴りつけるように暫定税率の維持を主張した12月16日の直後であったのだ。菅は同じ官邸にいるからピンとくるものがあったとみても、おかしくない。そこで小沢邸詣でをやったとみれば、つじつまが合う。結果的に万歳三唱が見事な猟官運動であったことは間違いない。これで財務相どころか、ポスト鳩山の最右翼に躍り出たことになる。しかし、問題は国会を乗りきれるかどうかだ。
今朝の新聞は、総じて菅の人となりを番記者が書くから、お追従記事になっているが、菅の置かれた立場は相当厳しいものがある。閣僚になった後も、官房長官・平野博文に主導権をとられて、担当であった国家戦略室がほとんど機能しないことは、衆目の一致するところであった。成長戦略などにめどが立たないから予算編成が漂流し始めていたところを、小沢の一喝でで助けられたのだ。菅の性格を一言で言えば、舌鋒だけは鋭い“攻め”の政治家だ。アジテーターでもある。しかしアジテーターには責任が伴わない。守りには弱い。攻守ところを変えて、守りができるかということだ。
野党は当然そこを突く。自民党予算委理事の加藤紘一が「すぐカッとなるので、攻めやすい」と述べているゆえんだ。まず攻撃の対象になるのは、マニフェスト路線の大修正だ。破たんと言ってもよい大転換が、やり玉に挙がる。かって首相・小泉純一郎を年金一元化問題で「“オレオレ詐欺”ならぬ“やるやる詐欺”じゃないですか」と追い詰めたことがある。しかし、ガソリン税率の継続、郵政社長人事、来年度予算案の財源問題などは、まさに“マニフェスト詐欺”そのものだ。そもそもマニフェストは、2003年の総選挙で菅が発案して以来のものであり、その路線が破たんしたのであるから、野党の追及は厳しいものがあろう。
また官僚に対する苛斂誅求(かれんちゅうきゅう)の厳しさは並外れている。厚相時代は、大臣室から怒鳴り声がしょっちゅう聞かれたという。官僚総本山の財務省に乗り込んで、官僚を操縦できるかどうかだ。霞が関では、民主党政権に対する不満の声がうっ積し始めており、いまは面従腹背だが、「人を人とも思わぬお方」(総務省高官)とささやかれる菅に、十分な情報が集まるかどうかだ。「菅・官対決」が折に触れて生じそうだ。党内一二を争う論客というが、閣僚答弁に論客は不要だ。誠実に政策のあるべき姿を語ることこそが、予算委答弁の要だ。野党にいるころなら、不倫をしても「一夜は共にしたが男女関係はない」で済むかも知れないが、閣僚答弁となるとそのレトリックは利かない。集中砲火を浴び続けるうちに、かならず「イラ菅」の本領を発揮する挑発的な答弁や失言が出てくるだろう。菅は小泉内閣の閣僚の国民年金未納が相次いだ際、「未納三兄弟」と形容して流行語となったが、マザーゲートの鳩山にしろ、事情聴取の小沢にしろ、「イラ菅」にしろ、どうも「高転び三兄弟」の様相が濃くなってきた。
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