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2009-12-09 00:00
来年度予算の年内編成に赤信号
杉浦正章
政治評論家
このままでは戦後最大の赤字国債発行は不可避であり、自らを「世界一の借金王」とやゆした首相・小渕恵三を大幅に超えて、首相・鳩山由紀夫は「世界一の借金大王」に就任する見通しだ。加えて「出来なければ、責任を取る」としてきた公約の柱、子供手当、高校無償化、暫定税率の廃止を、「節約」によって実現することは不可能であることが、ようやく理解されるに至った。遅いのである。要するにマニフェスト路線が行き詰まり、無理強いすれば日本の財政は、機能を失いかねないところまできた。政権を支える連立与党間の軋みも表面化しており、来年度予算案の年内編成に赤信号がともった。かって細川政権はやはり連立のもつれで年内編成できずに、公約違反の赤字国債を盛り込んで2月15日にようやく予算案を作って、4月に倒れたが、何やら似てきた感がある。
ニワトリは脳神経が短いから、3歩歩けば過去を忘れるというが、どこかの国の首相そっくりだ。今度は「国債が増えたら、日本が持たない」と前政権攻撃に精を出した鳩山が12月8日、「44兆円に手足を縛られて、人の命が失われるよう話になってはいけない」と赤字国債大増発を示唆した。新規国債の発行額は、公約実現と税収の落ち込みから、何と計53.5兆円に達しそうな見通しとなった。ついこの間まで「マニフェストは節約で7.1兆円を捻出(ねんしゅつ)する」と熱心に説いて回り、多くの有権者の票を引きつけたばかりで、まさに「空想性虚言」と言われても仕方がない。麻生政権の初年度発行額33兆を上回らない額にすることなど、夢のまた夢だ。普天間問題では、米国を取るか、連立を取るか、の選択を迫られているが、経済財政運営では、赤字国債増額を抑えるか、マニフェストを断念するか、の選択を迫られている。援護射撃か朝日新聞は7日にぶち抜きの大社説を掲げて、「公約よりも大局を見よ」と主張するまでに至った。朝日の社説を待つまでもなく、選挙の時点からマニフェスト実現不可能は指摘されてきたが、予算編成の段階を迎えて、それが現実の問題となってきたのである。
富裕層も一律に子供手当や高校授業料の無償化を行うことへの理不尽さが、政権与党内でも問題視されるに至った。無謀にも2・5兆円に上る財源・暫定税率を公約通り廃止すると宣言した蔵相・藤井裕久も、代わりに環境税を新設するかどうかで壁に突き当たっている。これら重要公約がまさに崩壊の“危機”にひんしているわけだ。読売の9日の社説ははっきりしている。「バラマキに近い政策は取りやめるか、大幅に縮減せよ。ガソリン税廃止は撤回せよ」である。赤字国債か、マニフェスト強行か、が俎上(そじょう)に上がった中で、今年度だけでなく来年度の税収も落ち込み必至の状況だ。「元はと言えば自民党にも責任がある」(菅直人)とばかり言っていられる時期は過ぎた。鳩山が消費税の自縄自縛を解くかどうかだ。これについても鳩山は「4年間は実施しない」と明言して、選挙に勝ったが、公約に固執することこそ、無責任のそしりを受ける段階に入ったのではないか。ここまで来たら“3歩歩く”に限る。皆忘れてしまうのがよい。
このように経済・財政状況は、マニフェストとこれを支えてきたあらゆる発言が空中分解せざるを得ない方向となってきた。当然国会で首相の責任は問われるところであろうが、問題は政権内部で来年度予算への意思統一ができるかどうかである。2次補正ですら亀井静香の横やりで、菅直人との醜悪なバトルが展開されている。本予算は公約の是非をめぐって、より一層の問題を露呈するだろう。鳩山に統括能力がないことは判明した。もう年内編成は不可能になりつつあるのではないか。補正も前政権の3兆を凍結して、緊急景気対策に半年の穴を開け、今度は本予算が遅れかねない。年内編成の赤信号は政権への赤信号でもある。
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