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2009-11-12 00:00
綿あめ政権では民意は離れる
大江 志伸
江戸川大学教授・読売新聞論説委員会特約嘱託
鳩山首相が掲げる政治理念「友愛」を、甘くてすぐに溶けてしまう「ソフトクリーム」に例えたのは、中曽根元首相である。鳩山氏は1996年の旧民主党結党に際し、祖父・鳩山一郎元首相が唱えた友愛論を「両立しがたい自由と平等を結ぶ架け橋」と再定義し、リベラル勢力の合同を訴えた。その時のエピソードだと聞く。あれから13年、鳩山友愛論は溶けて消えるどころか、首相就任を境に鳩山政権の金看板となりつつある。
内政面では「友愛とは、すべての人が互いに人の役に立ち、必要とされることで、社会につながっている絆。居場所を見つけられる世の中だ」 (朝日新聞)と説き、外交面では日米関係の見直しと連動する形で「日本は東洋と西洋の架け橋」と位置づけ、東アジア共同体構想を前面に押し出している。奇しくも今年は冷戦終結20年に当たる。バブル崩壊と冷戦終結が重なった日本は、この間、政治、経済の両面で迷走を続け、冷戦終結がもたらしたグローバル化への対応も遅れた。脱官僚依存政治、生産者重視から消費者重視への、そして外需主導から内需主導への転換、といった新政権の方針は、自民党政治のひずみを正すうえで不可欠なものと言えるだろう。
日米関係を波立たせているインド洋での給油活動の中止、普天間基地移転合意や日米地位協定の見直しのような動きは、政権交代期の国では普通に起きうることだ。より「緊密で対等な日米関係」を築くためにも、日米両政府は摩擦を恐れず、生産的な意見交換に努めて欲しい。米国側が警戒する東アジア共同体構想にしても、日本の貿易総額のうち中国が2割(米国13%強)、アジアが5割を突破する流れに沿ったものであり、日本の軸足がアジアへとシフトするのは当然といえる。問題は、鳩山政権の情報発信力である。政界では常識となっている鳩山発言のぶれぶりは、首相就任後も一向に収まらない。東アジア共同体構想を例にとれば、日中韓が共同体の中核になると呼び掛けたかと思えば、アセアンとの首脳会議ではアセアン重視を力説するといった具合だ。
共同体構想に米国は含まれるのか否かについても、含みを残す首相に対して、岡田外相は「米国抜き」を明言するなど、内閣全体の発言のぶれも目立つ。しかも、それぞれの発言がどれも説明不足で、いかにも軽い。鳩山首相は件の「ソフトクリーム」論を意識し、「ソフトクリームからアイスキャンディーになった。芯が出てきた」と自賛したと伝えられるが、ふわふわと中身の薄い情報発信ぶりは、むしろ「綿あめ」を連想させる。縁日に綿あめは付き物だ。だが、政権交代劇という縁日は、国民との蜜月関係が曲がりなりにも続くとされる100日までだろう。その縁日も50日を超えた。綿あめ政権のままでは、民意は足早に離れかねない。
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