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2009-11-06 00:00
紛れもない“小切手外交”の復活:給油代替策
杉浦正章
政治評論家
早い話が、年間0.7億ドルで済んでいた自衛隊の給油活動費の代わりに、年間8億ドルを5年間にわたって注ぎ込むことになる。人気が陰る大統領・オバマも、この日本の「小切手外交復活」を唯一の手柄話として持ち帰ることが出来る。しかし、民主党政権がマニフェストにこだわって普天間移転に結論を出さない代償としては、あまりに巨額である。逆に米国にとっては、日本の支援強化は願ってもないオバマ政権のアフガン戦略を後押しする好材料だ。首相・鳩山由紀夫が11月2日の予算委員会で、自信ありげに普天間移設問題を「大統領来日までに決めなければないとは思わない」と断定したから、何かあると思っていたら案の定だ。3日は「われわれとどのような関係を築きたいかは、結局のところ日本政府の決定にかかっている」とすごんでいた米国務省報道官・ケリーが、4日になって「米国は特定の期限を設けていない」と急に軟化した。言うまでもない国務長官・クリントンから「もういい」とのサインが出たからにほかならない。
6日に予定されていた訪米を外相・岡田克也がキャンセルしたのもうなずける。岡田が5日の米国務次官補・キャンベルとの会談で最終確認したに違いない。すべては5年間で40億ドルにあったのだ。政府が固めた方針は、「油を中止する代わりに、国連開発計画(UNDP)などの国際機関を通じたアフガン支援策を推進するというものだ。警察官の給与を負担するなどの治安対策をすすめる一方で、稲作指導などの農業・ 農村開発、それに首都カブール近郊などでのインフラ整備や反政府武装勢力・タリバンのうち穏健派グループの元兵士を対象にした職業訓練の実施などが検討されている。アフガン支援実績はイギリスを抜いておそらく米国に次ぐ世界第2位になるだろう。2001年以降政府は、アフガンに対し総額18億ドルの支援を行っている。年間で1.9億ドルだ。加えて給油活動は年間約0.7億ドル。合計で2.6億ドルになる。これが一挙に8億ドルに膨張することになる。これまでの3倍の大盤振る舞いである。
やぶをつついて蛇を出してしまったのだ。給油は各種制約の中で過去の政権が編み出した“芸術作品”であったのだ。民主党政権がメンツにこだわって、引っかき回した結果、湾岸戦争で当時の自民党幹事長・小沢一郎がやった小切手外交に、また逆戻りすることになったのだ。「カネは出すが、汗はかかない」と国際的に批判された、あの小切手外交である。湾岸戦争後の復興支援で約130億ドルを拠出しながら、国際的な評価が得られなかったトラウマ(心的外傷)が、以降の日本外交に影響を及ぼし、出来うる範囲での自衛隊海外派遣が実施され続けてきた。小沢はその悔しさを当事者として一番理解しているはずだが、黙認している。
自民党政権以上に赤字国債を出さなければならないという財政状況のなかにあって、カネで片付けようとする安易な外交が、民主党政権の外交懸案における初の解決策となった。日経新聞が10月14日付の「やはり『小切手外交』を繰り返すのか」と題する社説で「給油中断は、米国や北大西洋条約機構(NATO)諸国ら『有志連合』で進めるアフガニスタンでの対テロ戦争からの離脱を意味する。日本の離脱は、本音は撤収したいが、耐えているNATO諸国にも影響する。オバマ政権の苦悩は深まる。日米関係が負う傷は、外相の想像より深い」と危惧(きぐ)していた事態が、その通りになった。
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