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2009-10-31 00:00
米国は、アジアが統合しなければならない「理由」である
山下 英次
大阪市立大学大学院教授
「アジア地域統合とか、東アジア共同体に、アメリカを含めるべきではないか」と言う人が最近多くなっているようで、驚かされる。この問題については、私は、リヒャルト・クーデンホーフ・カレルギー(RCK)が、1922年5月、ウィーンで「汎ヨーロッパ主義」の演説を行った際にあったとされる逸話のことを思い出してしまう。RCKが演説を終えた後、誰かが、「ところで、あなたの汎ヨーロッパには、ロシアは含まれるのですか?」と尋ねたと言う。それに対して、RCKは、「ロシアは、ヨーロッパが統合しなければならない理由なのです」と答えたという。すなわち、「ロシアをヨーロッパの枠組みに入れるなど論外である」という意味である。当時は、ロシアで、共産主義革命が起ってから間もなくのことであり、ロシアに対する警戒心が、ヨーロッパでとりわけ高まっていたということもある。
現在のアジアにおける米国の問題を考えると、少なくとも経済的には、アメリカは、アジアが地域統合をしなければならない最大の「理由」なのである。このようなことを言うと、「欧州にとってのロシア」と「アジアにとっての米国」を一緒にする気なのかといって、鼻白らむ方も多いかもしれない。無論、「欧州にとってのロシア」と、「アジアにとっての米国」は、同じ「理由」でも、その中身が違う。しかし、少なくとも経済的に冷静に考えれば、そのような結論に帰着するのである。地域経済統合の目的は、諸々の外的ショックから自らの地域をいかにして隔離し、プロテクトするかということに他ならない。
今次グローバル経済・金融危機は、誰の目にも米国発であったと分かるが、実は1960年代以降発生した世界的経済危機のほとんどすべてについて、その根因を辿れば米国に行き着くのである。第1次ドル危機は、1960年10月、すなわち遥か昔のアイゼンハウアー政権の末期にすでに起こっている。その背景は、米国の国際収支の赤字化であった。それ以来、およそ半世紀、米国は国際収支の赤字を無視し続けてきた。この構図は、この50年間、基本的に全く変わらない。今次危機の根因もまた、そこにある。すなわち、この半世紀というもの、米国は少しも教訓を得なかったのである。その間、ドルは基本的に下落し続け、例えば円に対しては、$1=\360から$1=\90へ、約4分の1に価値が低下した。
アジアに対してだけでなく、世界経済全体にとって、アメリカは最大の撹乱要因であり続けてきたのである。今後も、間違いなくドルは何回かにわたって暴落するであろう。そうしたショックから、日本とアジアを守るのが、アジア経済統合の最大の目的である。そして、それは、ヨーロッパが、ニクソン・ショック(1971年8月)に憤慨し、その僅か4月足らず後の独仏首脳会議で、事実上、ECスネイク制という域内共通通貨制度の創設を決めた理由にも、そのままつながるのである。ECスネイク制は1972年4月に発足した。そして、ヨーロッパは、それによって、外的ショックからの隔離効果を獲得するという大きな成果を上げた。このように考えると、アジア経済統合の枠組みに米国を入れるべきだなどという人は、アジア統合地域の目的や意義がそもそも全く分かっていないと言わねばならない。
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