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2009-10-16 00:00
国難となりつつある来年度予算編成の破綻
杉浦正章
政治評論家
かって「地雷原を行くが如し」と政権の前途を占ったが、いまの状況は、あちこちで爆発が生じ始めているともいえる。まず来年度予算編成をめぐってマニフェストを逆手に取った官僚の「不作為の反乱」が起き、概算要求が圧縮どころか、史上最大になった。首相・鳩山由紀夫も、「国家が持たない」と猛反対してきた国債発行を是認せざるを得ない事態に至った。それも借金が予算の半分を超えそうな見通しだ。大方針を示すはずの国家戦略局も機能せず、削減のための行政刷新会議も初会合すら開かれていない。焦点の厚労相・長妻昭は記者会見からとん走して、読売新聞に「財務省などから圧力を受け続け、嫌気がさしたのではないか」と書かれる始末。政治の現実に野党時代の“攻め”が通用しないことが鮮明になり、予算の年内編成にも赤信号がともり始めた。
いろいろ“操作”して、やっと概算要求総額を92兆まで“圧縮”させたが、実態は100兆を軽く超える内容であったらしい。表看板の“政治主導”が全く成り立たず、財務相・藤井裕久が打ち出した「要求大臣でなく査定大臣」というキャッチフレーズは「要求悪乗り大臣」に変えた方がよい状況だ。ポイントは、内閣最大の目玉である管直人の国家戦略局が、主導権争いに負けて機能せず、鳩山はことの成り行きを「あれよ、あれよ」と見守るばかり。それどころか、税収の落ち込みを理由に赤字国債の発行を認めざるを得ない事態になった。数多い鳩山の食言の中でも最も悪質な部類に入る。国債発行の可能性はかねてから指摘したとおりの流れになった。鳩山が「予算の半分近くが借金だ」として批判し続けた国債は、2009年度が44兆円だが、同年度の税収の伸びは当初見込みの46兆円から40兆円を切るところまで落ちている。したがって鳩山政権の国債は、予算の半分を超えてしまいかねない異常な見通しとなってきた。
鳩山が「無駄遣いの削減と埋蔵金の発掘でマニフェストの財源は捻出(ねんしゅつ)できる」と断言してきた発言も食言化し、もろくも崩れたのが現実だ。そして目の敵にしてきた官僚から手痛いしっぺ返しを受けつつある。官僚側にしてみれば、マニフェストの実行が至上命令である限り、概算要求から落とすわけには行かない。内閣は発足早々に既に出されている概算要求をほごにして、再提出するよう官僚に指示したのだから、鳩山はこの“官僚主導”を責めるわけにもいかない。各省担当大臣は何も分かっていないから、官僚が積み上げたものをうのみにせざるを得ない。長妻が早々と記者会見を逃げて、午後7時に帰宅した背景には、上積みが3.7兆にも達して、さすがにいままで言ってきたことと違った発言を余儀なくせざるを得なくなったと予感したからである。長妻の行動は、野党時代に敵失を攻めることが巧みでも、現実政治の処理能力は簡単ではない、という民主党政権の直面した問題を象徴している。
概算要求出し直しで、一か月遅れた予算編成作業は、年末まであと2か月半を切った。にもかかわらず概算要求を斬り込む行政刷新会議は下旬まで開けそうもない。年内編成を達成できるかどうかは、景気を直撃する問題であり、この政権にその能力がるかどうか疑わしい。担当の仙谷由人に斬り込む能力があるかというと疑問だ。NHKの日曜討論でも学者・評論家らの重要な指摘をすべてをはぐらかしていた。おりから日本経済を見る海外の目も厳しさを増している。ロンドン・タイムズは「アナリストは新政権が日本経済を奈落の底に突き落とすと警告する」と報じ、 ブルームバーグも「新政権は日本を破滅させる」とどぎつい。まさに日本は新政権発の“国難”に直面している状況だ。
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