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2009-10-11 00:00
拉致被害者支援のブルーリボンバッジは心に付けよう
大江 志伸
江戸川大学教授・読売新聞論説委員会特約嘱託
鳩山民主党政権が本格始動に向けアクセルを踏み始めた。当面、最大のターゲットは「脱官僚政治」のようである。首相自ら「(マニフェスト実現の過程で)試行錯誤があるかも知れない。国民の皆さんは暖かく見守って欲しい」とあっけらかんと言ってのける素人臭さは、その手腕に不安を覚えながらも、新政権の「世直し」に望みを託して見るかとの思いを、国民に抱かせている。支持率70%台という比較的高い数字は、そうした国民心理の反映なのだろう。自民党体制下で既得権や影響力の拡大に精を出してきた官僚、財界にすれば、「勝手が違う」日々が続くことになる。
政権交代劇による「勝手の違い」は、各方面に広がっている。北朝鮮による拉致被害者問題もその一つである。先の総選挙では、拉致被害者支援に強く関わってきた自民党大物議員が軒並み落選した。拉致被害者の家族や支援組織の間では、新政権が拉致問題にどう取り組むのか不安視する声が出ている。横田めぐみさんの母、早紀江さんは6月に野党代表だった鳩山氏に会った際、被害者救出運動のシンボル、ブルーリボンバッジを胸に付けてあげた。その後、バッジを付けた鳩山氏は確認できなかった。9月29日、政権発足後に初めて拉致被害者家族と面会した鳩山首相の左胸には、あのバッジが光っていた。しかし、今回もバッジ着用はこの時だけだった。
「バッジは小さいけど大事なもの。ずっと付けていただきたい」。日頃からこう訴える横田さんたち家族にすれば、首相の対応は不満に違いない。一方で、全閣僚や外交官が四六時中バッジを着用していた自民党政権時代の光景は、異様といえば異様だった。一般市民の拉致という非道な犯罪に対する国民の怒りは、バッジ不着用イコール非国民といった雰囲気まで醸し出した。被害者家族の苦しみ、怒りは心から理解できるが、世論の硬直化は日本外交から柔軟性を失わせた側面もある。当時、バンコク駐在だった筆者はASEANなど国際会議の舞台裏に多く接してきた。会議の主題そっちのけで、北朝鮮非難の文言を声明にねじ込もうと奔走する外交官や政治家の姿には違和感を覚えた。
日本の政権交代と前後し、米朝交渉の再開機運の高まりなど、国際情勢に変化が出てきた。強硬論一辺倒だった拉致被害者サイドでも、蓮池薫さんが交渉による局面転換を訴え、耳目を集めている。消息すら定かでない残る拉致被害者を救うには、硬軟両様、臨機応変の対応がいよいよカギとなってこよう。とかく強硬論を競った自民党政権時代、ブルーリボンはその象徴ともなった。横田さんはじめ家族の方々は「勝手の違い」に戸惑うかもしれないが、結果的に政治臭を帯びてしまったバッジ着用運動は、使命を終えたのではないだろうか。何より、党派、政治信条に関わりなく、ブルーリボンはこの国の人々の心にしっかり刻まれているのだから・・・・。
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