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2009-09-16 00:00
君子は豹変すべきなのか
大江 志伸
江戸川大学教授・読売新聞論説委員会特約嘱託
「君子は豹変す」――豹の毛が季節ごとに抜け変わって美しい斑紋となるように、君子は過ちがあれば素早くこれを改め、時代の変化に合わせて鮮やかに面目を一新する。日本人が最も好む故事成語の一つだ。民主党の総選挙大勝による歴史的政権交代が確定した後、識者やマスコミが金科玉条のように唱え続けているのが、この「君子豹変」である。「マニフェスト(政権公約)は所詮、選挙向け。いざ政権の座に就いたのなら、『現実』に合わせた軌道修正が必要だ」というのが、彼らの主張ようだ。とりわけ、新政権の外交・安保、対米政策に対する豹変圧力は止む気配がない。
インド洋での給油活動反対や在日米軍再編の見直しを掲げる民主党の外交政策に対し、国内では総選挙以前から不安視する声があった。投票日直前には、波紋は米国に飛び火した。米有力メディアが報じた鳩山新首相の論文が、市場原理主義やグローバリズムを批判した下りを強調する抜粋掲載だったこともあり、「反米的」と受け止められたからだ。9月9日の3党連立政権合意でも、民主党が従来から掲げる「主体的な外交戦略」や「緊密で対等な日米同盟関係」、「東アジア共同体(仮称)」の構築」といった基本方針が再確認された。新政権の外交は、内外の懸念を引きずっての船出でとなった。
民主党は政権奪取の過程で、自民党に対抗する外交目標を声高に叫ぶ一方で、具体的な代案や達成手段を充分には示さなかった。前述のような懸念が広がったのも当然かもしれない。しかし、対等な日米関係、アジア重視、国連中心主義といった民主党の外交理念は、自民党の歴代政権が追求してきた課題と重なる。要は濃淡、強弱をどうつけ、国益につなげるかだ。どの国でも政権が代われば、外交政策にも変更が加えられるのは当然のことだ。新政権発足前から、しかも国内で「日米関係は変えるな」との大合唱が起きるのは、奇異な現象といわざるを得ない。
吉田首相は「戦争に負けて、外交で勝った先例はいくらでもある」との気概で、対米外交に臨んだ。相手が強大であればあるほど、強烈な「対等」意識なしに、真の「緊密」な関係は築けまい。今回総選挙で、有権者が新政権に託したのは、機能不全に陥った戦後システムの打破である。「君子は豹変す」には、「小人(しょうじん)は面を革(あらた)む」という対句が続く。徳のない人でも変われるが、それは表面的なものに過ぎない、という意味だ。新政権のスタートにあたり、「豹変」を求められている「君子」は、民主党ではない。歴史的転換を選択し、一層責任を増した国民自身である。戦後システムの既成概念から抜け出せない「小人」が「豹変」を説く時代ではない。
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