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2009-09-09 00:00
対アジア輸出強化こそは、日本農業再生戦略の道
進藤 榮一
筑波大学大学院名誉教授
マニフェスト選挙で政治が揺れ続けた。その震源にFTAと農業政策と成長戦略がある。しかも震源地は、景気低迷下の「農業王国」北海道である。マニフェストはそもそも単に未来の約束ではない。商契約のように、過去の政策の帰結だ。その点で私たちは、2007年当時、麻生外相が日韓米豪印による「平和と繁栄の弧」を提唱し、日豪FTAを進めた過去を想起できる。一戸当たり農地面積は、日、韓ともに約1.5ヘクタール、中国0.17しかないのに、米国は196、豪は4100であり、その規模の違いは圧倒的だ。これまでの日本政府の農業政策は、北海道農業壊滅に至る政策であって、農業再生戦略の欠落を象徴している。
今問われるのは、コメを完全除外して締結された韓米FTAの衝撃に、日本はどう対処し、日本農業再生にどうつなげるかだ。グローバル情報・環境革命下の世界で自給率をいかに引き上げるかの戦略である。確かに自給率向上を約束し、多様な福祉政策や成長戦略を謳うのは易しい。しかし福祉政策は財源が見えない。成長戦略は、弱者切り捨ての新自由主義政策の転換なくして、不可能だ。そして先進国中最低の40%まで低下した自給率を50%まで反転させるためには、半世紀にわたり続いた旧来型の補助金漬け政策の転換なしに無理である。英国ですら、65年45%の自給率を70%台に回復するのに、20年かかっている。しかも再生の決め手は「戸別所得補償制度」だ。販売価格と生産費の差額を基に一戸ずつ直接助成し、農業の担い手を育てる方式、いわばEU方式である。
その点でいえば、膨大な耕作放棄地を生んだ減反政策をやめ、直接支払補償制度で農業活性化を図る政策は今日、政党の壁を超えて実現されなくてはならない。しかも現存マニフェストは、与野党いずれも一国主義の狭い枠内にとどまっている。「外交の継続性」と日米基軸論の冷戦神話に囚われて、世界経済の成長地帯アジアとの共生の視座があまりに希薄である。なぜ国際競争力の強いわが国農産品の対アジア輸出戦略を、農業再生の主軸にすえないのか。EU並みの広大な規模を誇る「農業王国」北海道こそが、情報革命の波をつかんで農業輸出戦略の中核を担いうる。そのため農産品の高付加価値化とブランド化によって、農商工学連携で農業の第六次産業化を進めること、そして地域活性化の核をつくり、北の大地を東アジア食糧安保基地の中心にすえる大胆な外交戦略を打ち出すことである。
しかも洞爺湖サミット以後、いまだ十分着手されない、森林吸収措置でCO2削減による環境革命の先端も開きうる。生まれ始めた東アジア食品産業共同体の形成を推進し、アジア連携の大胆な戦略を今こそ提起すべき秋だ。この20年間に対米貿易が27.4から13.7%へと激減したなかで、対中貿易が3.5%から20.4%へ激増し、対アジアが48.8%、対ユーラシア貿易が73.9%を占めるようになっている。この激変した新しい現実こそは、日本経済と北海道農業再生の道を指し示している。
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