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2009-09-05 00:00
(連載)ロシア側は日露関係をどのように捉えているか(3)
斎藤 元秀
杏林大学教授
ロシアの『コメルサント』紙(7月10日付け、電子版)によれば、イタリアでの日露首脳会談の当日、プーチン首相はカレリア地方のペトロザヴォーツクで開催された国家国境委員会の会議に出席した。そして上記の日本の国会決議に対する直接的な言及を避けながらも、「近隣諸国にとってロシアの天然資源は魅力的である」とか、「国境地帯の領土の非友好的な合併はありえないし、将来も起こってはならない」と述べて日本を牽制し、メドヴェージェフ大統領に援護射撃を行った。領土問題を基軸にして対日政策を検討するかぎり、プーチン首相とメドヴェージェフ大統領の間に大きな齟齬はないようだ。
メドヴェージェフ大統領は、G8サミット終了後の記者会談で、「平和条約締結後、歯舞、色丹両島を日本に引き渡すとした1956年の日ソ共同宣言に立脚して、領土問題の解決を図りたい」と強調する一方で、択捉、国後、歯舞、色丹に関する帰属の問題を解決して早期に平和条約を締結することを謳った1993年の東京宣言への言及を回避した。こうした発言のなかに歯舞、色丹両島の返還により領土問題を最終的に決着させ、その代償に日本から大規模な経済・技術援助を得て、シベリアやロシア極東の開発を本格的に推進する、というロシア側の本音が見え隠れしている。ロシア側は、領土問題を解決するため、日本がロシアに歩み寄って経済・技術協力をさらに行うべきだと力説している。かかる情勢のなかで、日本はどのような対露戦略を展開すべきであろうか。
G8サミットに先立って、モスクワで開催された米露首脳会談で、ロシア側は従来の方針を翻し、アフガニスタンに駐留している米軍を支援するため、通過料を一切支払うことなく米軍がロシアの領空や領土を通過してアフガニスタンに軍事物資を運搬することを認めた。こうした譲歩を行ったのは、アフガニスタンのイスラム原理主義勢力タリバンを制圧したり、米軍の力を借りてアフガニスタンから流入してくる麻薬を取り締まったりしたいと思っているからに他ならない。この事例から明らかなように、ロシアは自国に利益をもたらすと考えたときに、外国に対し譲歩する傾向がある。
強気の対日姿勢とは裏腹に、ロシアは、シベリアやロシア極東の開発がうまく行かず、焦燥感を覚えている。中国の台頭も不快である。物価の高い択捉では、人口が大陸へ流出し、減少しているという情報がある。資源依存型経済から脱出をはかるロシアは、日本のハイテク導入も渇望している。こうしたロシア側がおかれている厳しい現状やロシアの願望を念頭に入れて、北方領土問題を「日本の要求を入れて早期に解決したほうが、ロシアにとって結局は得策である」と認識させるよう、我が国はロシア側を巧みに誘導して行く必要がある。そのためにも、総選挙後の安定した政権の登場と骨太の対露戦略の構築が不可欠だ。(おわり)
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