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2009-08-26 00:00
民主党圧勝のあとの日本政治のカオス
杉浦正章
政治評論家
列島を覆う「民主党ええじゃないか」の風潮について、少子化相・野田聖子が「政権交代と対峙している感じだ」と言い、防衛相・浜田靖一が「見えない敵と戦っている」と表現している。政権党が壊滅的な打撃を被る例は、世界史的には多いが、日本の戦後政治史では初めての例であり、選挙戦の渦中にいる閣僚自身も説明がつかないのであろう。筆者はこの風潮について、有権者が民主党のワンフレーズ・ポリティクスによるポピュリズム選挙に、完全に「はまった」とみる。「政権交代」だけを強調して、政策の細部を避ける選挙戦術である。これは有権者が「賭け」に出たことを物語っており、歴史的に「吉」と出るより「凶」とでる公算が大きいとみる。
カナダでは1993年の下院総選挙で、キャンベル首相率いる与党の進歩保守党が、2議席を除いて全選挙区で全滅している。カナダは完全小選挙区制だが、今回の場合も小選挙区での自民党激減であり、似通っている。また1989年の参院選挙では、リクルート、消費税、宇野首相の女性問題の3点セットが争点となり、一人区で自民党は3勝23敗と惨敗した。土井たか子は「山が動いた」と形容したが、これが衆院で現選挙制度の下で行われたら、現在と同じように自民党は壊滅的打撃を被ったであろう。直近では4年前に自民党が296議席を占めた小泉郵政選挙がその逆の例だが、現在民主党は選挙戦術でこの選挙を完全に“模写”している。キャッチコピーは、小泉が「郵政改革の是非」だけであり、鳩山由紀夫は「政権交代」の一言である。全国に刺客を立てて現職をつぶす戦術も全く同じだ。小泉のワンフレーズ・ポリティクスは広告会社電通の入れ知恵で成功したものだが、世界の政治史を見ると類似の例は英国にある。
第一次世界大戦における英国の指導者ロイド・ジョージが行ったワンフレーズ・ポリティクスである。首相ロイド・ジョージは1918年の総選挙において、国民の不満が対ドイツ政策にあるとみるや、「カイザーを吊せ」「ドイツにとことん払わせる」をキャッチフレーズに、公認詔書である「クーポン」を乱発して、刺客を対立候補に立てた。その結果ロイド・ジョージの連立派(保守党ボナー・ロー派+自由党ロイド・ジョージ派)が自由党アスキス派を完敗させ、自由党のぶちこわしに成功している。この選挙はイギリス近代選挙の幕開けとされているが、英国政治史にとっては結果は「凶」と出た。ロイド・ジョージのポピュリズム選挙は、その後の英国の政治を混乱の極みに導き、ナチスの台頭や世界恐慌にも適切な対応が出来ぬまま、第二次世界大戦につながっている。
「2大政党制で、政権交代を容易にする」(後藤田正晴)として導入された小選挙区比例代表制だが、その予言がまさに当たろうとしている。しかし今回の潮流は、2大政党制どころか、民主党が1党だけで全ての法案を成立させられる3分の2の多数にも達する勢いであり、その場合1党独裁が可能になる。しかし、右から左までの主義主張の異なる勢力を抱え、まぎれもなく小沢一郎の「院政」がしかれることになる民主党政権は、取るに足らぬ勢力になりはてる自民党などの野党に対する対策ではなく、党内対策で混乱の症状がかならず出てくる。ロイド・ジョージが、自分が刺客に立てた政治家達の反乱で政権の座を追われたように、また小泉が過度な市場原理主義に自民党内から“総スカン”を受けつつ引退したように、ポピュリズム政治の末路は知れている。300余の議席は、とても鳩山の手に負える数字ではあるまい。鳩山は失言を恐れて記者のぶら下がりにも応じなくなったが、その消極姿勢を見れば、政治家としての器量は分かる。日本の政治がカオスから抜け出るには、やはり10年かかる。
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