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2009-08-01 00:00
「ワイン文化」の東アジアへの浸透
矢野 卓也
日本国際フォーラム主任研究員
昨7月31日、タイ・バンコクで「Thailand Sommelier of the Year 2009」というイベントが催された。その名のとおり、タイで最もすぐれたソムリエを選ぶコンクールである。このコンクールは、タイのワイン専門誌『Wine Today』の創刊者が主催し、フランス政府観光局、フランス食品振興会(SOPEXA)、ボルドー・ワイン委員会(CIVB)といったフランス政府系機関の他、ポメリー社など名高い酒造業者が共催団体として名を連ねた。会場はバンコクのデュシタニ・ホテルであった。昨年に引き続き2回目となった今回のコンクールは、それまでタイでいくつか催されたソムリエ・コンクールとは、別格の規模だという。優勝者は、本年10月に日本で開催される「アジア・オセアニア最優秀ソムリエ・コンクール」にタイ代表として出場することになる。
コンクールのレセプション会場には、タイ各界の名士の他、ワイン愛好家が多数集まり、彼らには世界中から集められた高級ワインや高級食材がふるまわれた。そのような光景自体、タイの上流社会ではよくあるものだ。たしかに、タイでは、ワインは贅沢品として高額の関税がかけられており、庶民にとっては依然高嶺の花である。しかし、それにもかかわらず、近年、都市中間層にも徐々に「ワイン文化」が浸透しつつある。タイの年間ワイン消費量はここ数年で何倍にも増加している。『Wine Today』といった専門誌も誕生した。国産ワインも誕生し、味も上々である。そして、なによりも「世界に通用するソムリエ」を生み出そうとの動きを見せていること自体、たいそう興味深い。タイでソムリエを目指す若者は、むろん上流階級の子弟とは限らない。
タイに限らず、「ワイン文化」は東アジア世界にとって「外来」のものである。一般に「外来文化」は、まず上流社会のステイタス・シンボルとして機能し、のちにじわじわと一般市民層に普及する。とくにワインのような取り扱いが難しいデリケートな嗜好品には、その傾向が顕著である。その意味で、東アジアにおいては、「ワイン文化」の普及、そして他ならぬソムリエの存在は、社会的成熟のバロメータとしての意味合いを持つといえる。むろん、インドネシアやマレーシアなど、イスラームの影響下にある国では事情はことなるが、そのような国でも華人の間では、ワインは着実に普及しつつあるようだ。我が国も例外ではない。いまでこそ「世界最優秀ソムリエ」を輩出してはいるものの、ワインが市民権を得たのは、たかだかここ40年くらいのことである。
実のところ、今回、タイがそのようなソムリエ・コンクールを催した背景には、日本や韓国などを大いに意識していたふしがある。「Association de la Sommellerie Internationale (ASI)」という権威あるソムリエの国際組織があるが、世界44カ国の加盟団体のうち、アジアからは日本と韓国と香港のみが加盟している。とどのつまり、タイのワイン業界は「日本人や韓国人にできて、タイ人にできないわけがない」と言わんばかりに、ASIへの加盟を実現すべく、真摯な努力を重ねているのである。「ワイン文化」の普及は、国内のワイン市場の拡大によってもたらされる経済的効果もさることながら、市民社会が成熟した証として絶妙の宣伝効果を持つ。たかがワイン、されどワイン、である。国家の発展は意外なところにその兆候を見せるのだ。それにしても、かりに将来、「世界最優秀ソムリエ」がタイから出たとしたら、さぞかし愉快ではあるまいか。
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