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2009-07-21 00:00
日本はアジア各国の環境問題への「参画」を強化せよ
武石 礼司
東京国際大学教授
世界の各地域において、環境問題への取組みが「総合安全保障」確保の一環となる状況が生まれている。現在の日本においては、環境問題といえば、即「温室効果ガス削減」との認識が一般的であるが、発展途上の諸国においては、経済成長の過程において生じる公害問題、居住環境の劣化・破壊、健康被害、自然破壊という、より身近な、人為的災害として意識される面が強い。日本が第二次世界大戦後の高度成長期に経験した「地域環境の悪化」という問題を、発展途上の諸国はより凝縮された短い期間で経験しつつあると言える。
例えば、世界の工場と呼ばれる中国においては、河川と湖沼の水質汚濁が急速に進んでおり、従来、汚染が報告されていなかった辺境の地域においても、工場からの排水による魚類への影響、飲料水の採取不能といった事例が報告されている。エネルギー需要の急増に応えるために石炭生産の増強も進められているが、筆者も見聞したように、露天掘りを行った跡地が何の対処もされず、巨大なクレーターに水が溜まったまま放置されている例も多い。発展途上の諸国においては、ひたすら利益を出すことのみを追い求めてしまい、発展に伴う環境負荷の増大という負の部分に対する配慮を欠いたままとなる事例が多く見られる。
日本は、高度成長期において環境の悪化を経験し、またその後、悪化した環境を改善するという貴重な実績をあげている。水俣病を始めとして、早期に対応できていれば人的被害を格段に減少できたことを、貴重な教訓として国民は理解するに至っている。発展途上の諸国においても、早め早めの対応が社会全体として結局は望ましいということを、日本が得た教訓を踏まえ、理解する必要がある。自然保護の徹底も必要である。どの国も、自然保護の重要性を他国が指摘することを、内政干渉だと言って拒絶することはできなくなってきている。アジア各国においても、国境を接する地域は、森林資源あるいは漁業資源の宝庫である場合も多くあり、少数民族が(現存の)国境を自由に越えて、放牧、焼畑、漁労、交易等を行ってきた例も数多く見られる。
数千年もの期間、持続可能な自然資源の利用が図られてきた地域である以上、自然保護地域として指定するばかりではなく、国境地域に存在する社会・文化・文明を人類の共有の財産として守り、その地域の居住者に、従来の居住地域を維持するとともに、記録として残す作業こそが重要となる。こうした「広義の意味での環境問題」への取り組みが必要となっており、各国の内政問題として他国が意見を述べることが出来ない問題ではなく、むしろ積極的に日本を含めた諸外国が取組みを積極化し、発言し、環境保護に「参画」していく必要が生じているとの理解が必要である。広義の環境問題への取り組みを促進することが、地域の安全保障(総合安全保障)の確保に結びつくとの視点も重要である。
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