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2009-06-03 00:00
周小川・中国人民銀行総裁の国際通貨改革論の狙い
村瀬 哲司
龍谷大学教授
本年3月周小川総裁が発表した論文「国際通貨制度を改革せよ」は、現在の国際通貨制度あるいは基軸通貨米ドルへの挑戦として、大きな波紋を呼んだ。「管理通貨制度のもとで特定の国民通貨を国際準備通貨として使用する仕組みは、歴史的に稀なケースであるだけでなく、現在の世界危機に見られるような弊害をもたらす。従って、超国家的な準備通貨としてSDR(特別引出し権)を育成し、IMF(国際通貨基金)がその管理にあたるべき」と提唱する。
周総裁が批判する米ドルを基軸通貨とする現体制は、「体制なき体制」ともいわれるように世界中の経済主体が自然に作り上げたもので、米国が強制しているわけではない。確かにブレトンウッズ体制のもとでは、金に裏付けられた米ドルがIMF協定により基軸通貨の地位にあったが、その崩壊から30年以上現在まで、ドルの法的地位は円、英ポンド、ユーロなどと何ら異なることはない。竹中正治龍谷大学教授が指摘する通り、事実上ドルが基軸通貨として選好されているにすぎない。
周総裁は、国際準備通貨は理論的に(1)安定した基準に基づき、明確なルールによって発行され、(2)需要の変化に応じて供給が弾力的に調整され、(3)この調整が特定国の状況と利害から切り離されることが必要であると述べる。だが、このような条件が満足されるのは、世界中の国民通貨が単一通貨に統合され、単一通貨を管理する世界中央銀行が設立される場合しかあり得ない。この実現の可能性は皆無といって差し支えないだろう。
そこで周論文は、かつて世界の流動性補完手段として考案されたSDRに着目する。すなわち、「SDRの利用範囲を広げるため、SDRの(1)決済制度を設立、(2)民間取引を促進、(3)金融資産を創設し、(4)構成通貨の決定基準(通貨の拡大、GDPの採用)と配分方法(単なる合意ベースから実物資産の裏付けへ)を変更し、IMFがSDR建て基金を設けるなど、世界機関として流動性の創出と管理の任に当たるべし」と主張する。
仮に提案内容に沿ってSDRの利用範囲を広げたとしても、どのようにして基軸通貨の座に据えるのだろうか。IMFあるいはどこかの政府がSDRの使用を強制するわけにはいくまい。市場原理に沿って米ドル(あるいはユーロなど)とSDRを、貿易の決済通貨、外国為替の媒介通貨、準備資産それぞれの分野で競争させるのだろうか。例えば外為市場では売買の8割以上が米ドルを相手通貨としているが、これがSDRに置き換わることを考えているのだろうか。
周論文には、人知の名のもと政治力で経済活動を管理・支配できるという傲慢さ、社会主義的な臭いが感じられる。ケインズのバンコールがブレトンウッズで不採用だったのは不幸だったと嘆くが、それは単なる思い込みだろう。周総裁の真の狙いは、実は「ルールに基づく」SDRの増発と(交換性のない)人民元をSDR構成通貨に加えることにあるのではないか。歴史が示すように、しばしば国際ルールは強国のごり押しによって変更されることも忘れるべきではない。
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