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2009-06-01 00:00
盧大統領の自殺について思う
入山 映
サイバー大学客員教授・(財)国際開発センター研究顧問
韓国の前大統領の退職後の末路にはなにやら陰惨なものがある。今回の廬大統領の自殺というのはさすがに初めてだが、初代の李氏(本来は大統領と書くのが礼儀だが、ブログの気易さで簡記する)の亡命から始まって、思い出すだけでも全・廬(泰愚)両氏の逮捕・投獄、金泳三・金大中両氏は息子が罪に問われている。大統領とは比較にならないが、わが国では引退後の前・元総理がご意見番だったり、人気者だったりするのとは大違いだ。そんな末路を知りながら、激烈な選挙を戦って大統領になろうという人がひきもきらない、というのも不思議と言えば不思議だが、一体どうしてこんな有様なのだろう、とあちこちの識者や新聞、雑誌の論調をのぞいていたら、ふうん、と思わせるものに出会ったのでご紹介。
西バージニア大学の金(Hong Nack Kim)氏は、韓国研究国際ジャーナル(International Journal of Korean Studies)所載のペーパーの中で、韓国政治の特徴として以下の3点を挙げる。まず第1が、地域主義(regionalism)だが、このもの凄さについては、いろいろなところで報道されているから、改めて解説も不要だろう。全羅道と慶尚道の対立は、ことに有名だ。第2が派閥主義(factionalism)だという。まあ、こちらの方は、日本でも政党の如何を問わず健在だから、特に韓国特有という訳でもなさそうだが、要はこれまた凄さの違いということだろう。特に血縁の一族の紐帯の強さは、その上の藤原一門や平家の一族も顔負けらしい。面白いのは(というのも不謹慎かもしれないが)、第3に、妥協を潔しとしない態度(disinclination to compromise)にあるという。これは基本的には民主主義と真っ向から相反する態度であるのみならず、政敵関係が熾烈化するのは多言を要しないだろう。これが先の2つと結合すると、意見や立場の違いがそれに留まらず、善悪、怨念に転化する、というのも解り易い。
で、これにお定まりの政治とカネの話(これも別に韓国に限ったことではないのは、ご承知の通り)が野合すると、どんなことになるか。これも大して想像力を必要としない。個々の要素はどこの国でもおなじみのものだから、つくづく人間性というのはどこに行ってもあまり変わらないものだ、という感を深くするのだが、それが歴史と結びついて、色合いがどんどん濃縮してゆくと、傍から見ると異形のおどろおどろしいものにさえ見えてくる、ということだろう。だからバランス感覚とか法治主義のようなものがどれほど社会に根付いているか、が問われることになる。不謹慎なたとえかもしれないが、トイレの臭いに対する敏感さと同じことだといっても良い。バキューム・カーが都内を走り回っていたのも、そんなに昔のことではないのだ。日本でも将来を期待されていた若手政治家が自殺した(他殺説さえあった)が、痛ましい事件も記憶に新しい。今回の廬氏の痛ましい事件が異国のことだ、とあっさり割り切れるものかどうか。ご用心。
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