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2009-05-21 00:00
(連載)中国が仕掛ける通貨戦争(1)
田村 秀男
ジャーナリスト
米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長の師である故M・フリードマン教授は、「ある社会を破壊する最も効果的な方法は、貨幣を破壊することだ」という革命家レーニンの言葉を引用して、通貨の戦略的意義を説いた。世界金融危機の今、この箴言(しんげん)を生かしているのは中国共産党である。
舞台は台湾。中台間では、香港などを迂回(うかい)しない空海の直行便が始まるなど、大陸から台湾へのヒトとモノの流入が、昨年12月以降活発化した。カネの受け入れは制限され、人民元での買い物ができるのは、台北のみやげもの店などだけだ。が、カネの流れはいったんせきを切ると一挙に膨らむ。4月下旬、中国・南京で開かれた中台交流機関のトップ会談の結果、台湾側は、中国資本による台湾投資など、金融面でも門戸開放に同意した。中台の金融機関による人民元と台湾ドルの決済システムが整備されると、大陸資本が豊富な人民元を台湾の株式や不動産に投入できる。台湾の個人も企業も人民元資産を選べる。
人民元の象徴は毛沢東、台湾ドルのそれは国父孫文。それは一昔前の「国共内戦」の物語を思い起こさせる。「中華民国」を率いる蒋介石総統は、軍閥が乱発していた中国の通貨を1930年代半ばに統一した。英米の支援を受けた孫文肖像の「法幣」で、蒋介石は戦時体制を整えた。法幣は日本の軍票を駆逐し、日本軍の物資調達を難しくさせ、抗日戦争の勝利に貢献した。日本の敗戦後は、一転して法幣と共産党の通貨「解放区券」との争いになったが、蒋政権は法幣を乱発したために悪性インフレを全土に引き起こした。
通貨規律を守った共産党は幅広い階層の支持を得て、1948年12月に中国の新統一通貨、人民幣(人民元のお札)を発行し、法幣を圧倒し、翌年には国民党を台湾に追いやった。通貨戦争の勝者が共産党政権である。(つづく)
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