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2009-04-23 00:00
(連載)タイ政治と東アジアの地域統合(2)
矢野 卓也
日本国際フォーラム研究員
しかし、このような事態は、遅かれ早かれ生じてしかるべきものであった。中央優先、都市部偏重、エスタブリッシュメント優位といった今日のタイの緊張構造は冷戦期にすでに確立されたものであるが、冷戦終結後も温存され今日に至っている。他方、グローバリゼーションは、その恩恵を国土全体に及ぼすと同時に、地域格差をも生みもした。それらを背景に政治意識を高めつつある国民のなかには、既存の特殊タイ的な「民主主義」のあり方を疑問視する風潮も生じつつある。これまで政治的発言権を持たずにいた地方や貧困層がにわかに政治力を求め始めている。これは一過性の傾向というよりは、タイ社会のあり方をよかれあしかれ大幅に変える公算が高い。
なにはともあれ、タイの政治混乱は、これからしばらく続きそうである。東アジアの地域秩序を考えた場合、このような事態は一見望ましくないようにも見えるが、問題はその中身と方向性である。発展途上国にときおり見られるように、その国の国内的な矛盾が臨界点に達しているとき、なんらかの政治的昇華が求められるのは至極自然なことであろう。そのことが、その国の望ましい政治的進化を招くのであれば、国際社会としてやはり歓迎すべきことではなかろうか。逆にその昇華を無理に抑えつけ、目先の政治的安定を求めることは、長期的に見てその国家の成熟を妨げるであろうし、ひいては地域の発展を阻害する恐れもある。そこの見極めが肝心であると考える。
つまり、東アジアの地域統合を考えるにあたって、域内の国家がいつ何どき同様の事態を発生させるかもしれない、ということは常に計算に入れておいたほうがよいということである。タイとは性質を異にするとはいえ、何らかの深刻な国内的矛盾を抱えた国は、この地域には少なくない。それを承知で、地域の統合を模索するしかないだろう。言い換えれば、そのような国の「産みの苦しみ」を余裕を持って見守る器量こそが、いま何よりも重要だといえよう。その点こそが、ヨーロッパ型の地域統合と根本的に異なる点ではないだろうか。要は、サミットが延期されたり、中止されたりで、いちいち驚いたり、落胆したりすることのない、揺るがない政治的意思と長期的展望に立った地域統合の戦略が肝心だということである。(おわり)
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